Nobel







第一章―こんにちは、さようなら―

「痛てて・・・もぅ、転んだだけでこの衝撃・・・なぁ謙・・・って・・・!!!!!」
「どこだァァァァァッッッッ!!!!!????」
叫んだ声は山彦となり彼に3、4回聞こえた。
辺りは山々、そこにぽつんと迷人がいた。まだ動揺している迷人に、一人の女が声をかけた。
「あのぉ、もしかして、現実から来ました?」
金髪を優雅に翻し、黒いローブなんかより真紅なドレスが似合いそうだった。
その顔はどこか見た事があるような顔だった。
自分しかいないと思っていた迷人は、驚き、地に腰を落とした。
「・・・?・・!!アンタ、人・・・?」
驚いた迷人を落ち着かせるように宥めながら、説明を話し出した。
「まぁそんなとこ、でも住む世界は違うわ。ここは<幻想世界>あなたの<現実世界>の裏側と言ってもいいかしら?」
幻想世界。なんの事か分からないまま、迷人は聞き返した。
「俺らの・・・裏・・・?」
女はコクンと頷いた後、長々と語りだした。
「そうなるわ、<実>なるものと、<想>だけのもの。ここは、あなたの思い描いていた世界なの。だから今、あなたはこの世界の主人公。あなた、ここの世界の前に、ゲームとか小説とか、非現実的な事、考えてたでしょ?」
まるでRPGゲーム。
女の話す事をまだ少し疑いながら、女の言う、現実世界にいた時の事を思い出した。
「えーと・・・あぁ・・・うん。友達とゲームの事話してた。・・・じゃあ、女神がここに・・・?」
首を傾げて、辺りをキョロキョロと見回す迷人に対して、嫌味のように答えた。
「えぇ、・・・あら、こんな見窄らしい地味なローブじゃわからないのかしら?」
すると女は、黒いローブを脱ぎ捨て、中に着てたのか分からないくらいの薄く細い真紅のドレスを身に纏っていた。
「ぇ・・・あ、ぇえ!?」
再び驚いた迷人をまた起こすと、小さな欠伸をした。
「ふぅっ・・・息苦しいったらありゃしないわ?えっと、あなたも気づいたように、私は女神<フレイヤ>。言い伝えは、もう知ってるわよね?」
フレイヤは、当然の聞いた。
迷人は頷き、口を開いた。
「あ、うん。<迷えん事不幸と成りし>・・・なんの事か分からないんだよ。」
迷えん事不幸と成りし。古からある言い伝えのようだ。
それを聞いたフレイヤは、腰に手をあて、溜息を深くついた。
「まだ気づかないの?しょうがない子ね。迷えん事は迷わない人、君の名前は、迷人。だから君以外の現実からの人間が、この世界に立ち入ったら不幸になるって事。」
簡単な答えだ。そうなると、ゲームは元々、迷人の為に作られたようになる。
まるで、誰かにここへ来る事を導かれたように。
そんな事は考えていなかった迷人は、少し苦笑いをしながら答えた。
「へぇ・・・あ、主人公って事は俺・・・勇者?」
自分の指で自分を指し、少し目を白くして聞いた。
「えぇ。あなたは勇者で剣士。もう少し行ったところに魔法使いの家があるから、そこの子と旅になるわよ。それと、私と交信したい時はこれを手で握って思ってね?」
そう言うとフレイヤは迷人に蒼白のペンダントを渡した。
中を見れば見るほど海のように沈んだ蒼。
迷人はそれを手に取ると、首からさげた。
「うん、分かったよ。」
フレイヤは、まるで口うるさい母親のように話し出した。
「防具や剣は町に売ってるから、彼女のところに行ったら町に行ってね?これからモンスターがでるの、倒したらお金がでるから拾って、この財布につめて。」
また渡されたのは、漆黒の財布だった。
「わぁ・・・真っ黒い財布・・・」
それの中には、あらかじめフレイヤが入れておいた3000リンズ入っていた。
「これにいれとくと、モンスターにとられないの。一応短剣もわたしておくわね?」
革の刀入れに入った短剣が渡された。
ダガーナイフのように、両方が刃になっていた。
「うん、なんかすげぇー・・・」
「まぁ、聞きたくなったら交信を使って。それじゃあ!行ってらっしゃい!!」
「ぁぃょっ!じゃあ行ってきまーすっ」
迷人は森の中に姿を消していった。
その後彼は気づいただろうか。
フレイヤの顔が、自分の母親とそっくりな事を・・・